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預かり在庫とは?預け在庫との違いから管理方法、会計処理まで解説
預かり在庫とは、他社の所有物を自社で一時的に保管している状態の在庫を指します。 この記事では、預かり在庫の基本的な意味から、混同されやすい預け在庫との違い、具体的な管理方法、そして会計処理上の注意点までを網羅的に解説します。 適切な在庫管理は、取引先との信頼関係を維持し、法的なリスクを回避するために不可欠です。
預かり在庫とは?基本的な意味をわかりやすく解説
預かり在庫とは、その名の通り「他社から預かっている在庫」のことです。 所有権はあくまで相手方の企業にあり、自社は加工や検品、一時的な保管といった目的のために物理的に商品を管理しているに過ぎません。 ここでは、預り在庫の基本的な概念と、対義語である「預け在庫」との違いについて、所有権の観点から解説します。
預かり在庫は「他社の所有物を自社で保管している」状態
預かり在庫とは、加工や組み立て、検品といった業務のために取引先から原材料や商品を一時的に預かり、自社の倉庫や工場で保管している状態の在庫を指します。 重要なのは、その物品の所有権が自社にはなく、供給元である取引先(委託者)に帰属している点です。 例えば、アパレルメーカーが生地を染色工場に支給し、染色後の製品を一時的に工場で保管してもらう場合、染色工場にとってその生地は預かり在庫となります。 自社の資産ではないため、管理方法や会計処理において、自社で仕入れた在庫とは明確に区別して取り扱う必要があります。
「預け在庫」との決定的な違いは所有権の所在にある
預かり在庫としばしば混同されるのが「預け在庫(委託在庫)」です。 両者の違いは、自社から見て在庫の所有権がどこにあるかで決まります。 「預かり在庫」は他社の所有物を自社が預かっている状態ですが、「預け在庫」は自社の所有物を他社に預けている状態を指します。 例えば、自社製品を遠隔地の倉庫業者に保管してもらったり、販売を委託している店舗に置いてもらったりする場合がこれにあたります。 どちらのケースも在庫の所有権は移動していませんが、自社が預かる側か、預ける側かという立ち位置が全く逆になるため、会計上の処理や管理責任の所在も異なります。
預かり在庫の管理で発生しやすい3つの課題
預かり在庫の管理は、通常の自社在庫の管理とは異なる特有の難しさがあります。 管理体制が不十分な場合、単なる管理の複雑化に留まらず、取引先とのトラブルや意図しない不正、法律違反といった深刻なデメリットにつながるリスクをはらんでいます。 ここでは、預かり在庫の管理において特に発生しやすい3つの課題について具体的に解説します。
課題① 自社の在庫と混ざってしまい管理が複雑になる
預かり在庫を管理する上で最も起こりやすい課題が、自社の在庫との混同です。 同じ倉庫内で特別な区別をせずに保管していると、見た目が類似した部品や商品を誤って自社の生産ラインに使用してしまったり、顧客へ誤出荷してしまったりするリスクが高まります。 また、棚卸しの際に預かり在庫を自社在庫として誤ってカウントしてしまうと、在庫差異が発生し、正確な資産状況の把握が困難になります。 こうした管理の複雑化は、不要なトラブルを招き、取引先からの信頼を損なう原因にもなり得ます。
課題② 破損や紛失が起きた際の責任の所在が曖昧になりがち
預かっている在庫に破損や汚損、紛失、盗難などの問題が発生した場合、その責任の所在が曖昧になりがちです。 事前に保管条件やトラブル発生時の責任範囲について、書面による契約書で明確に取り決めておかないと、どちらが損害を負担するのかを巡って深刻なトラブルに発展する可能性があります。 例えば、保管中の経年劣化や自然災害による損害はどちらの責任になるのか、検品基準はどうするのかといった点を具体的に定めておかなければ、いざという時に責任の押し付け合いになりかねません。
課題③ 知らないうちに下請法違反となるリスクがある
親事業者が下請事業者に原材料などを有償で支給し、製品を納入させる取引において、預かり在庫の管理方法が下請法に抵触するケースがあります。 例えば、下請事業者の責任ではないにもかかわらず、預かっていた原材料を一方的に返品したり、発注した製品の受領を拒否したりすることは、下請法で禁止されている「不当な返品」や「受領拒否」にあたる可能性があります。 また、原材料の対価の支払いを遅らせたり、不当に減額したりすることも問題となります。 自社にそのつもりがなくても、結果として法令違反となるリスクがあるため注意が必要です。
預かり在庫を管理するメリット
預かり在庫を適切に管理することで、取引先の要望へ迅速に対応できる体制が整い、ビジネスチャンスの拡大に寄与します。 例えば、顧客から支給された原材料を預かることで、生産のリードタイムを短縮でき、急な増産要求や納期変更にも柔軟な対応が可能となります。 これにより顧客満足度が向上し、取引関係の強化が期待できます。 さらに、効率的な在庫管理を通じて、保管スペースの最適化や関連コストの削減が実現できれば、それが新たな付加価値となり、企業の競争力を高めることにもつながります。
預かり在庫を管理するデメリット
預かり在庫にはメリットがある一方、管理に伴うデメリットも存在します。 最も大きな負担は、管理工数の増加です。 自社の在庫とは明確に区別して保管スペースを確保し、入庫から出庫までの全てのプロセスを正確に記録・管理する手間が発生します。 また、自社の資産ではないにもかかわらず、破損や紛失のリスクを負う可能性があり、そのための保険加入など追加のコスト負担が生じることもあります。 これらのデメリットを事前に理解し、管理体制の構築や契約内容に反映させることが、リスクを最小限に抑える上で不可欠です。
預かり在庫のトラブルを防ぐための具体的な管理方法4選
預かり在庫の管理には様々な課題が伴いますが、事前に対策を講じることでトラブルは未然に防げます。 適切な管理体制を構築し、業務フローを整備することは、リスクを回避するだけでなく、預かり在庫がもたらすメリットを最大限に引き出すことにもつながります。 ここでは、実務ですぐに役立つ具体的な管理方法を4つ紹介します。
方法① 契約書で保管ルールや責任の範囲を明確に定めておく
最も重要なのは、取引先との間で書面による契約書を交わし、保管に関するルールを明確にすることです。 契約書には、保管料の有無や金額、保管期間、品質を維持するための保管条件などを具体的に記載します。 さらに、万が一の盗難や火災、破損といった事故が発生した際の責任の所在と、損害の補償範囲を詳細に定めておくことが不可欠です。 これにより、後々の認識の齟齬や紛争を避け、双方にとって公平で透明性の高い取引関係を維持できます。
方法② 保管場所を物理的に分けて自社在庫との混合を防ぐ
自社在庫との混同を防ぐためには、物理的な管理を徹底することが効果的です。 預かり在庫専用の保管エリアを設け、棚や区画を明確に分ける「ロケーション管理」を導入します。 その上で、「預かり品」や取引先名が明記された札やラベルを現品に貼り付け、誰が見ても一目で区別できるようにします。 このように保管場所を物理的に分離することで、誤出荷や棚卸し時のカウントミスといった人的ミスを根本から防ぎ、在庫管理の正確性を高めることが可能です。
方法③ 入庫・出庫の履歴を正確にデータとして記録する
預かり在庫の管理では、モノの動きを正確に追跡できる状態にしておくことが基本です。 いつ、どの取引先の、どの商品を、いくつ預かり(入庫)、いくつ払い出した(出庫)のかを、日付や担当者名と共に必ず記録します。 手書きの管理台帳でも可能ですが、ヒューマンエラーを防ぎ、情報の共有を容易にするためには、エクセルやスプレッドシートなどを活用してデータとして管理するのが望ましいです。 正確な入出庫履歴は、在庫数の照会や取引先への報告をスムーズにし、信頼の基盤となります。
方法④ 在庫管理システムを導入して管理業務を効率化する
預かり在庫の種類や数量が多く、手作業での管理に限界を感じている場合は、在庫管理システムの導入が有効な解決策となります。 システムを利用すれば、バーコードやQRコードとハンディターミナルを使って入出庫検品を行うことで、作業の正確性とスピードが飛躍的に向上します。 システム上では自社在庫と預かり在庫が明確に区別して管理されるため、リアルタイムでの正確な在庫状況の把握が可能になります。 管理業務の効率化は、人的ミスの削減だけでなく、担当者の負担軽減にも大きく貢献します。
【経理担当者向け】預かり在庫における会計処理のポイント
預かり在庫は所有権が自社にないため、会計処理において特別な配慮が求められます。 通常の取引とは異なり、どのタイミングで仕入や売上を計上するかが重要になります。 誤った会計処理は、税務調査で指摘を受ける原因ともなりかねません。 ここでは、経理担当者が押さえておくべき仕入計上と棚卸しの扱いについて、重要なポイントを解説します。
預かり在庫は資産ではないため仕入計上はしない
会計処理における大原則として、預かり在庫は自社の資産ではないという点を理解する必要があります。 所有権が取引先にあるため、預かった時点では自社の資産として貸借対照表に計上することはできません。 したがって、在庫を預かったタイミングで「仕入」として費用計上することもありません。 預かった原材料を加工して製品として納品し、相手方の検収が完了した時点で初めて、自社の売上と仕入(材料費)を両建てで計上するのが一般的な処理方法です。 所有権がいつ移転するのかを契約書で確認し、そのタイミングを正しく認識することが求められます。
棚卸しでは自社の在庫と明確に区別して計上する
決算時に行う実地棚卸では、倉庫内にあるすべての在庫を数えますが、預かり在庫は自社の資産ではないため、棚卸資産に含めてはいけません。 もし誤って棚卸資産として計上してしまうと、資産を過大に計上することになり、粉飾決算を疑われるリスクも生じます。 このようなミスを防ぐためにも、棚卸作業を行う際は、保管場所を明確に分けたり、「預かり品」の札をつけたりして、誰が見ても自社在庫と区別できる状態にしておくことが不可欠です。 棚卸リストを作成する上でも、預かり在庫は参考情報として別枠で管理します。
まとめ
預かり在庫とは、所有権が他社にある物品を、加工や保管の目的で一時的に自社で管理している状態を指します。 自社が所有権を持つ在庫を他社に預ける「預け在庫」とは、立ち位置が逆になります。 管理においては、自社在庫との混同や責任所在の不明確化といった課題が生じやすいため、契約書によるルールの明確化、保管場所の分離、正確な入出庫記録が不可欠です。 会計処理上、預かり在庫は自社の資産ではないため、仕入計上はせず、棚卸資産にも含めません。 これらのポイントを正しく理解し、適切な管理体制を構築することが、円滑な取引の維持につながります。


